彼がメガネを外したら…。
しかしその時、絵里花の頭に、ある一つの映像と共に一つの可能性がかすめた。
「そういえば……、先ほど確認した明治時代の古地図」
それは、公文書館から借りてきていた明治期の地図のコピー。絵里花は作業台の上にもう一度、それを広げてみる。
「この地図のここが今回、一連の史料が発見された家のあった場所ですよね?」
「うん」
史明も立って作業台の側に寄って、絵里花の指先を見つめる。
「この村からちょっと離れた所に、『城山』ってあった気がしたんですけど……」
と言いながら、絵里花がその記載がある場所を探すと、史明も地図の上に目を走らせた。
「……あっ!ここ!!」
絵里花がその文字を見つけて、指で指し示すと同時に、史明もそこを指さしていた。
二人の指先が、一瞬触れ合った。
「……!!」
絵里花の全神経が指先に集中して、息が止まった。心臓が跳ね上がって、視線は宙を舞い、自分が今なにをしていたのか分からなくなる。
けれども、史明の意識の中にはもうすでに絵里花は存在していなかった。絵里花に触れた指先はボサボサの髪の中に隠れ、史明は頭を掻きながら考え込んだ。
そして、山積みになっている書籍の中から、雑誌を一冊取り出してページを開くと、そこに示された地図の上を指先はたどった。