彼がメガネを外したら…。
「この論文は、俺の知る限りこの地方の古城や城跡に関する一番詳しい報告だけど、これにもその場所には城の存在は確認できてないな……」
史明は絵里花に話しかけるというより、まるで独り言のようにつぶやいた。
これはもしかすると、絵里花が見つけた「城山」と書かれている場所に、〝磐牟礼城〟はあったのかもしれない。
史明の興奮が伝染して、絵里花の胸がまたドキドキし始める。
もちろん、史明と心を一つにできることは嬉しい。でもそれ以上に、新たなことが少しずつ明らかになっていくこのワクワク感は、絵里花が経験したことのないものだった。
「俺、明日は仕事を休むことにする」
絵里花の帰り際に、史明はそう言った。
「えっ!?」
まさに今から新しい事柄を明らかにしていこうとしているのに、どうして休んだりするのだろう?そう思ってしまった絵里花の疑問はもっともだった。
「明日は仕事休んで、フィールドワークだ。この場所に行って、実際はどうなのか調べて来る」
「あ、そうなんですね……」
絵里花は、納得して頷いた。だけど、明日、史明はここには来ない。
明日は、この閉塞された空間の中、独りぼっちで作業をしなければならない。しかもその後は週末になるので、次に史明と会えるのは週明けということになる。