彼がメガネを外したら…。
こんな不愛想な史明でも、彼は絵里花の愛する人だった。その史明と3日間も会えないなんて……。
急に絵里花の胸が、キュッと狭くなった。
「……君も、一緒に来るか?」
切なさでいっぱいだった絵里花の耳に、不意にその言葉が響いた。
ここには、絵里花のほかには史明しかいないはず。目を上げて、それが空耳でないことを確かめる。
「君も、本当に磐牟礼城が存在するのか、確かめたいだろう?」
史明は分厚いレンズの向こうから、しっかり絵里花を見つめてくれていた。
絵里花はその瞬間、動転してしまって、気が遠くなりそうだった。
「……はい!」
でも、無意識のうちにでも、辛うじてそう答えることのできた自分を、本当に褒めてあげたいと思った。
それから、明日の計画を二人で話し合った。といっても、フィールドワークなんて絵里花には経験がなく、見識のある史明が立てた計画を聞いて、頷くばかり。でも、史明が自分に向かって、いつもより友好的に語りかけてくれるだけでも、絵里花の心は満たされた。
――これはもう、ほとんど、デートのようなもの……。
家に帰っても、絵里花は顔が緩んでしょうがなかった。
その行先が、山城だろうが藪の中だろうが二人っきりで出かけるのだから、それは世間一般的には〝デート〟と言ってもよい。