彼がメガネを外したら…。



女に運転させといて、楽しく会話するどころか初めから寝る体制になる男なんて、絵里花の感覚ではあり得なかった。
そもそも絵里花を誘ったのも、目的地まで行く手段だったのかもしれない。

こうやって初っ端から、絵里花の〝デート〟という妄想は、儚く打ち壊されてしまう。


……でも。
信号で停車した時、しみじみと史明を観察してみる……。

何日も剃られていない髭。昨日から着替えられていないシャツとズボン。……きっと、昨晩も遅くまで研究に勤しんで史料館に泊まり込み、ろくに寝ていないのだろう。


まるで少年のように、こんなにも一つのことに夢中になれる大人が、どれだけいるだろうか……。

その寝顔を見ていると、絵里花の胸がキュンと痺れた。
信号が変わって発進するとき、史明に振動が伝わらないように、絵里花はできるだけ静かにアクセルペダルを踏んだ。



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