彼がメガネを外したら…。
同窓生
目的の村まで、絵里花が運転すること約二時間。その間ずっと史明は、時にはイビキをかきながら眠りに落ちていた。
古庄家に到着すると、前もって史明が連絡して置いたのだろう、当主が出迎えてくれた。
「お久しぶりです、岩城先生。その節はお世話になりました。……おや?今日はお綺麗な方とご一緒で」
古庄さんは、見目麗しい絵里花に思わず見とれてしまう。絵里花も、お得意の極上の笑顔で頭を下げる。
「先生の奥様でいらっしゃいますか?」
「……え?奥様……!?」
その誤解を聞いて、絵里花は思わずにやけてしまう。傍目では〝夫婦〟に見えなくもないことが、絵里花はとても嬉しかった。
「いえ、この人は望月さんと言って、歴史史料館のただの嘱託職員です。古庄家文書の整理に当たっています」
この史明の説明を聞いて、絵里花の表情は険しくなった。
――……『ただの』って、わざわざ付けなきゃいけない?
絵里花の耳には、史明がそこだけ強調したように聞こえた。
こうやって研究に協力して、こうやって一緒に行動していても、史明にとっては自分は〝ただの〟嘱託職員。その現実を認識すると、本当に悲しくなってくる。
けれども、古庄さんがニコニコとして視線を向けてくれているので、絵里花も笑顔を作って深々とお辞儀をした。