彼がメガネを外したら…。
「当たり前だ。人の土地に勝手に入ってたら、不審者と間違われるだろう」
と、史明はさも〝非常識〟と言わんばかりに、絵里花を睨んだ。
――……いや、岩城さんの場合。何もしなくても、十分〝不審者〟なんですけど……?
絵里花は心の中でそうツッコミを入れたけれども、口に出しては言わなかった。
道のどん詰まりで晶の軽トラが停まったので、絵里花も自動車を路肩に停めて、そこに降り立った。
「ここからは徒歩になるけど、この奥が、タラの木山だよ」
晶が指をさして教えてくれる。史明はそれを確認してから、口を開いた。
「この山の所有者はご存知ですか?調査に入ることを了解してもらってないので、後ほど連絡をしたいと思ってるんですが……」
「この山を持ってるのは、ウチだよ。この山だけじゃない。この辺一帯の山林は、大体古庄家の土地だから、遠慮なく調査してもらって構わない」
晶がそう言うのを聞いて、史明はホッと胸をなでおろす。そんな史明が安心する様子を見て、「よかった…」と絵里花も心が軽くなったとき、すぐ側の山肌にうごめくものを感じ取った。
「………へ、ヘビ……!!」
絵里花が青ざめて、声をあげる。絵里花の見つけたヘビは、まるで挨拶でもするかのようにわざわざ絵里花の足元をすり抜けて、道の反対側の茂みに消えていく。