彼がメガネを外したら…。
「……あ、あ、あ、あ……!」
黒くて大きいヘビの動きを目で追いながら、絵里花は思わず助けを求めるように、隣にいた史明にしがみついていた。
そして、我に返って驚いてしまう。思いがけず、こんなに近くに史明が迫っていることに。
「………!!……すみません!!」
掴んでいた史明の服を離して、史明の側から飛び退くと、史明は怪訝そうな顔つきで絵里花を一瞥する。
「ヘビくらいで騒いでどうするんだ。その山ガール気取りの格好は、ハッタリか?」
史明に痛いところを突かれていたが、絵里花は幼少期より、ヘビが大の苦手だった。
すると、晶が笑いを漏らしながら、フォローしてくれる。
「今のはアオダイショウだったからよかったけど、マムシだったら大変だからね。気をつけることに越したことはないよ」
「……ま、マムシ?]
絵里花の顔がこわばった。マムシがどんなヘビだったか絵里花には思い出せなかったけれど、絶対に遭遇したくはなかった。しかし、晶はそんな絵里花に耳打ちして、そっと囁く。
「また『ヘビがいた』って、岩城くんに抱きつけるからいいじゃない」
絵里花は青ざめさせていた顔を、瞬時に真っ赤に塗りかえた。出会ってからの短い時間で、晶は絵里花の史明への想いを見事に見抜いていた。