彼がメガネを外したら…。
「ナメクジみたいなやつだよ。動物にへばり付いて血を吸うんだ」
「……!!」
絵里花が表情を凍り付かせて立ち尽くす様子を、史明は視界の端でチラリと確かめて、クスリと笑いを浮かべた。
その一瞬の史明の表情。
その刺激は、絵里花の目から心臓へ突き抜けた。胸がキュッと絞られて、苦しくなる。
そんな史明の笑顔を見られただけで、絵里花はヘビもヤマビルもどうでもよくなった。
「いつまで突っ立ってるんだ?置いていくぞ」
そう言いながら、史明はもう歩き出している。絵里花は急いで史明を追いかけた。
滅多に見ることができない史明の笑顔は、絵里花にとってご褒美のようなものだった。再び史明があの笑みを浮かべてくれたとき、もっと近くでそれを見つめているために、片時も離れず側にいようと思った。
杉木立の中の細い道を、史明の後に付いて、ただひたすら歩いていく。
むせ返るほどの木々の匂い。時折聞こえる鳥の鳴き声。見上げても枝々の間から見える空は狭く、収蔵庫とはまた違った空間に史明と二人きりで閉ざされているようだった。
歩きながら、絵里花はキョロキョロと視線を走らせ、〝石垣らしきもの〟を探す。すると突然、前を歩く史明の背中にぶつかった。
「どうかしたんですか?」
絵里花が問いかけると、史明はまるで独り言のようにつぶやいた。