彼がメガネを外したら…。
「こんなところに、宝篋印塔がある……」
「ほうきょういんとう……?」
「墓塔や供養塔にする仏塔の一種だよ。……まさか、知らないのか?」
「……いえ、知らなくはないですけど……」
と、絵里花は肩をすくめて答えてみたけれども、史明の指摘通り、それについての知識はほとんど持ち合わせていなかった。
本来の調査対象ではないにもかかわらず、史明は道を逸れて仏塔の側へと足を向け、丹念に観察し始めた。
「銘文はちょっと読み取れないけど、これはずいぶん古いな……」
木々に閉ざされた薄暗い所で、史明は白い斑点の付着した石を撫でながら言った。それを聞いて、絵里花が首を傾げる。
「……どうして、銘文で確認できないのに『ずいぶん古い』って判るんですか?」
「形状だ。この笠の部分の四隅の隅飾りが時代が下るにつれて、外に張り出すんだが、これはほとんど張り出していない。……もしかしたら鎌倉期のものかもしれないな」
史明の知識に基づく論理的な分析に、絵里花はすっかり感心してしまう。
仏塔の周りをうろつきながら、カメラを取り出して写真に収める史明。誰がどう見ても怪しいそんな姿を、史明に惚れている絵里花にはとても凛々しく見え、ウットリして見入ってしまう。