彼がメガネを外したら…。
「はあ?!どうして帰るんですか?」
「石垣は確認できなかっただろう?」
「石垣だとアテにしてたのが、お墓だっただけじゃないですか!どうしてそんなに、簡単に諦めるんですか?」
抜群に頭が良くて能力も高い史明だけど、欲がないというか諦めが早いというか、この粘り腰のない淡泊さに、絵里花は歯ぎしりするような思いだった。
絵里花は、聞く耳を持たないふうの史明の背中に向かって叫んだ。
「古庄さんのガセネタに惑わされて、諦めて帰るなんてバカみたい!!」
その激しい言葉に、史明もさすがに反応して、斜面の途中で立ち止まった。
「最初はそんな情報も持たずに、この山を調査するつもりだったはずです。この山はお城と同じ名前なんです。それに、ここには仏塔やお墓もあって……岩城さんの考察のとおりこれが鎌倉期のものなら、そんな昔からここには人の営みがあったということですよね?」
せっかくこうやって二人で出かけてきたのに、空振りで終わらせたくない……。絵里花のそんな思いが、史明へ言葉を尽くさせた。
振り向いた史明の顔を見ると、絵里花の想いが極まって目には涙が込み上げてくる。