彼がメガネを外したら…。
「この地図から地勢を読み取ると、この辺りとこの辺りに曲輪がありそうなんだ。だから、とりあえずここへ向かっている」
〝曲輪〟というのは、城の内外において掘削・盛土して平面空間を創出し、土塁、石垣、堀などで区画した区域のことをいう。
地図の上を指し示しながら史明が説明してくれると、絵里花は納得するよりも先に感心してしまう。
この山に〝磐牟礼城〟があったらしいことは、史明だってつい先ほど知ったはずなのに、ここまでの分析をしているなんて。
「分かりました。早くそこに行ってみましょう!」
絵里花は頬を紅潮させて、力強く頷いた。史明の言う通り、そこに行けばきっと何かが見つけられると、信じて疑わなかった。
そんな絵里花を見ていると、史明には不意に疑問が浮かんでくる。
「どうして、君はそんなに一生懸命なんだ?君の研究じゃないんだから、君の功績にはならないだろう?」
問いかけられて、絵里花は言葉を逸してしまう。
――それは、あなたのことが心の底から好きだからです。
心の中だけでそう告白すると、絵里花の胸がキュッと軋んで苦しくなった。
いっそのこと今ここで、この抱えきれないほどの想いのすべてをさらけ出してしまおうか……。そんな衝動に駆り立てられる。
絵里花は、史明の分厚いレンズの向こうにある目を見つめ返した。