彼がメガネを外したら…。
レジャーシートの上に、ランチボックスを並べる絵里花を、史明は立ちすくんだまま見つめている。
「お腹を満たして、まだまだ探してみましょう。岩城さんも、さあ、座ってください!」
絵里花が明るく声をかけると、史明はその並べられた食べ物をジッと見下ろした。
「……こんなにリュックに詰め込んで、ずっと歩き回ってたなんて。斜面を上れなかったわけだ……」
ポツリとつぶやいた史明を、笑顔の絵里花が見上げる。
「……え?」
「いや……、なんでもない」
史明は不愛想に返事をしながら、レジャーシートの上に腰を下ろす。
「岩城さん、何食べます?嫌いな物とかありますか?」
問いかけられて、史明はフタの開けられたランチボックスに目を落とす。それは、〝軽食〟というには立派過ぎるちゃんとした〝お弁当〟だった。
「……君と俺でこんなに食い切れるのか?それとも、遭難でもするつもりなのか?」
史明に食べてもらおうと、頑張って早起きして丹精込めて作ってきたのに、こんな言われようをして絵里花は少々カチンときてしまう。
「食べきれなかったら、帰って私の晩御飯にします。……だけど……」
と、言い返す途中で言葉を潰えさせた。
――だけど、岩城さんとだったら……、遭難してもいいかも……。
続く言葉は、心の中でつぶやいた。