彼がメガネを外したら…。
「……君が食べ終わったら、帰ることにしよう」
いち早く食べ終わった史明は、そう言って立ち上がった。
絵里花は途端に表情を曇らせて、史明を見上げた。その顔を見て、史明もため息をつく。
「君は、帰ることを諦めることのように思ってるみたいだが、〝研究〟ってこんなもんだ。上手くいくことの方が珍しいし、空振りすることも多いんだ」
史明がそう説くのを聞いて、絵里花の中の思いが行き場を求めて込み上げてきた。
いつかは諦めなければならない史明のへの想い。だけど、まだこの研究にかける思いは諦めたくなかった。まだまだ全力を尽くせる余地はあると思った。
何も答えない絵里花に、史明はさらに言葉を続ける。
「それに、ここに来たことは空振りじゃない。この山がこの土地の人たちに『磐牟礼山』と呼ばれていたことは確認できたし、山頂付近にはこうやって人工的な平地がある。山裾には宝篋印塔や五輪塔の群集もあった。特に五輪塔は発掘する価値のあるものだ。また新たな発見があって、それが新たな研究に繋がるよ」
ーーでも、その『新たな研究』は、岩城さんじゃない別の人がするんでしょう……?
そう思ってしまうと、絵里花はどうしようもなく切なくなって、やっぱり涙が込み上げてくる。