彼がメガネを外したら…。



そんな絵里花を見てしまうと、さすがに史明もやるせなくなる。やるせなくなるのは、このフィールドワークが無駄足になるからなのか、絵里花がこんな顔をするからなのか、分からなくなる。


史明は気を紛らわせるように、その場を離れて歩き回り始めた。絵里花もしょうがなく、その場を片付け始める。……と、その時だった。


「…ぅわ……っ!」


普段は聞くことのできないような史明の声がして、絵里花が振り向くと、草の茂る地面に倒れこむ史明の姿が見えた。


「大丈夫ですか?!」


心配して絵里花が駆け寄ると、史明はむっくりと体を起こす。


ーー……ハッ!!


絵里花は思わず息を呑んだ。
そこで見ることができたのは、メガネが外れた史明のあまりにも端正な容貌。

史明の顔にだけ惹かれているわけではないけれど、この容貌を見るたびに何度も、絵里花の全身の血液は逆巻いた。


「メガネは?どこ行った?」


史明はキョロキョロとメガネを探し回っているのに、絵里花は立ちすくむばかりで、そんな史明から目を逸らせない。


「おい!俺の顔に何か付いてるのか?ちょっと一緒に、メガネ、探してくれ。俺は、メガネがないと、ほとんど何も見えてないんだ」


声をかけられて、絵里花は我に返った。


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