彼がメガネを外したら…。
礎石を眺める史明を、絵里花は振り返ってそっと見つめた。
一応の成果を得られ、充実感で満たされている史明の表情。メガネをかけていないことと相まって、それはとても麗しく素敵で、そしてとても凛々しかった。
史明の目には、その視線を向けている礎石は、ほとんど見えていないはずだ。その目に映っているのは、500年もそれ以上昔の風景。ここに建物を建て、行き交った人々の姿。
史明の心と共鳴して、絵里花にも往時の人々の息吹が伝わってくる。懐かしいような、恋しく切ないような、なんとも言えない感覚――。
「さあ、計測をして、それから写真を撮って、山を下りよう」
満たされた表情のまま、史明が絵里花に語りかけた。
「はい……」
絵里花は、史明と共有できた今のこの感覚を、壊さないようにそっと胸の中にしまいこんで、静かに頷いた。