彼がメガネを外したら…。
「……でも、間違えてますよね?引き返して、元の道まで戻りますか?」
絵里花は、恐る恐る史明に尋ねてみる。史明はその整った顔の眉間にしわを寄せて、絵里花を見つめ返した。
「どこで間違えたかも分からないのに、戻ってももっと迷うだけじゃないのか?」
「それじゃ、どうすれば……」
こんな時に泣きたくなんかないのに、絵里花の声には涙が混ざって震えてしまう。
史明はため息をひとつ吐き、自分のバッグから地図を取り出した。時刻と太陽の方角を確かめて、今の位置を推定する。
「多分、違う谷道に下りてきてしまったんだろうから、このままこの道を下っても大丈夫だ。山を下れば、いずれにしてもこの農道に出る。それから農道伝いに、車のあるところまで戻るしかない」
地図で確かめてから、史明が方針を固めてくれる。絵里花は黙ったまま、ただ頷くだけだった。
「それにこの岩場は、手を使わないと危ない。別々に下りた方がいい」
危ないから手を繋いでいたのに、矛盾しているような気もしたが、絵里花は史明の言うことに従うしかなかった。
二人はそれぞれに岩場を下り始める。所々で岩に手をついて、絵里花は慎重に一つひとつ歩を進めた。