彼がメガネを外したら…。
岩場が終わって絵里花が振り返ると、史明はあともう少しのところにいた。メガネがないので、足元もよく見えていないのだろう。絵里花よりも一歩一歩慎重に、岩場を下りている。
それでも目測を見誤ってしまったのだろうか。
「……あっ!」
絵里花が声をあげた時には、史明は足を踏み外して、岩場を滑り落ちてしまっていた。
「いっ、岩城さん!!……岩城さん?!」
血相を変え、絵里花は来た道を戻って岩場を上り、史明のもとへたどり着く。史明は、岩の間に尻もちをついた状態で動けないようだったが、意識はあるようだ。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ。頭は打ってない」
と言いながら、史明は側の岩を支えにして立ち上がったが、左足を着いた瞬間に、鋭い痛みが走り顔を歪ませた。
「足が……、やられてるみたいだ」
「骨が、折れてますか?」
絵里花は真っ青になり、その痛みを想像して、泣き出しそうになりながら尋ねる。
「いや、〝ボキッ〟とはいわなかったから、折れてはいないだろう。だけど……」
だけど、これは到底『なんともない』とは言い難い状況だった。多分、重症の捻挫。それを双方とも指摘しなかったが、大変なことになってしまった。