彼がメガネを外したら…。
「つかまってください」
絵里花は史明の腕をしっかりと掴みながら、先ほどまでよりも慎重に、ゆっくりと岩場を下りる。史明の体重がまともにかかり、それを持ちこたえるのは一苦労で、岩場を抜けたときには絵里花は息を乱し、汗びっしょりになっていた。
「……まったく、踏んだり蹴ったりだ」
史明も息をあげながら腰を下ろし、ため息をついた。
「少し休んで、様子を見てみましょう」
心配そうに患部を見ながら、絵里花が提案する。すると、史明は苛立たしさを隠さずに言った。
「少し休むくらいじゃ、治りそうにない。自力で歩けるのを待ってたら、日が暮れるどころじゃなく何日もかかるかもしれない」
「……じゃ、どうしたら……」
にべもない史明の言い方に、絵里花は少し物怖じしてしまう。
「君一人で山を下りたらいい。ここで俺に付き合ってる必要はない」
これを聞いて、絵里花の表情も険しくなった。
「何を言ってるんですか?怪我してる岩城さんを一人で置いておけるわけありません」
「君がここに一緒にいても、二人で衰弱してしまうだけだ。下山して、どこか連絡の取れる場所から消防なり警察なりに通報して、助けをよこしてくれればいい」
絵里花は史明をジッと見つめて、この言葉に聞き入っていたが、唇を噛むと確固とした意思を表明した。