彼がメガネを外したら…。
「嫌です!私は絶対に、一人で行ったりしません!」
「だから!俺は歩けないって言ってるだろう?」
聞き分けのないことを言って、駄々をこねているような絵里花に、史明はついつい言葉を荒げてしまう。
言い合いになってしまって、絵里花は思わず涙ぐんだ。こんな非常時に、泣いてもなんの役にも立たないことは解っている。史明の言う通り、早く一人で山を下りて、助けを呼んで来た方がいい…ということだって、十分に解っている。
「……こんな寂しくて迷いやすい山の中を、一人ぼっちで歩くなんて、怖くて……私には無理です」
それに、なにより、怪我をしている史明の側を離れたくなかった。
「そんなこと言って……。どうするんだ?この状況を。誰も見つけてくれなかったら、二人で衰弱死するかもしれないんだぞ」
絵里花の涙を見て、史明も語気を和らげてため息をつく。
『衰弱死』はともかく、今史明は、激しい痛みと闘っているに違いない。一刻も早く史明を病院へ連れて行って、早く痛みを癒してあげたい。だけど、史明は自力で歩くことはできない……。
……絵里花は覚悟を決めて、気合を入れた。
「一緒に山を下りるんです。私が岩城さんを背負ってでも、絶対に一緒に行きます!」
「俺を背負うって?そんな、君にできるわけないだろう?!」