彼がメガネを外したら…。
「できるかできないかは、結果を見てから言ってください。さあ、立ちますよ?」
「俺は、こう見えてけっこう重たいんだ。女の君には無理だ!」
首を横に振り続ける史明の言葉を、覚悟を決めている絵里花はもう聞き入れなかった。
「早く山を下りないと、本当に日が暮れてしまいます」
と言いながら、史明の腕を引っ張って、行動に移すことを促した。
絵里花の言う通り、日は大分傾いている。明るいうちに山を下りるためには、一刻の猶予もないだろう。
史明も観念して、右足を踏ん張って立ち上がる。
「背負わなくていい、肩を貸してくれ」
絵里花は頷いて、史明の左腕を両肩に載せると、自分の腕は史明の背中に回して体勢を整えた。そして、一歩二歩と歩き出す。
「……言っとくけど、俺、昨日風呂に入ってないからな?」
お互いの体をこんなにも密着させているから、自分の〝体臭〟が気になったのだろうか。そんなことを言い出した史明に、絵里花は笑いとともに息を抜いた。
「……知ってます。昨日も収蔵庫に泊まり込んだんでしょう?そんなこと、もう慣れっこですから。それに私自身も、ずいぶん汗臭いと思います」
「君?君は、いつもと同じだ」
「……いつもと同じ?」
いつもこんな汗の臭いを漂わせているのかと、絵里花は不安になってくる。