彼がメガネを外したら…。



絵里花のその沈黙を、史明は苦しそうだと判断したのだろうか。


「……ちょっと、休もうか」


そう声をかけて、立ち止まった。熊笹が生い茂る中にちょうど手頃の岩があったので、それに腰かける。
絵里花も大きな負荷から解放されて、ホッと息を抜いた。そんな様子の絵里花を見て、史明は先ほどの押し問答をもう一度持ち出した。


「やっぱり、このままだと二人とも行き倒れる。君だけでも山を下りた方がいい」


その言葉を聞いた途端、絵里花の顔が曇った。そんな絵里花の変化はほとんど、裸眼の史明からは読み取れなかったが、真剣な表情で絵里花を見つめた。

こんな時なのに、絵里花はその史明の凛々しく整った相貌に見入ってしまう。この史明の側を離れてしまうなんて選択肢は、絵里花の中には存在しなかった。


「岩城さんを背負ってでも、一緒に行くって言いましたよね?何度も同じこと、言わせないでください」


史明と二人で行き倒れるのならば、それでも構わないと、絵里花は思った。でも、史明だけはちゃんと戻らなければならない。
華々しい場所で、きちんと彼の実力を認めてもらうために。ここで発見できたことを形あるものにして、『磐牟礼城』に日の目を見せてあげなければならない。


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