彼がメガネを外したら…。
「俺は、特に何もしていないよ」
……と、その期待はほんの数秒で打ち砕かれる。そもそも、このビン底メガネの史明が懸命にスポーツに打ち込む様は、どれほど絵にならないだろう……と、絵里花は気を取り直す。
「それじゃ、何も部活とか、してなかったんですか?」
「うん……、そうだな。中学高校と、『郷土史研究クラブ』には入ってたけど」
――あー、やっぱり!!
絵里花が、うすうす予想していたことが的中して、おかしくなってくる。
「昔から全然ブレてないんですね。素晴らしいです」
思わず出てきた絵里花のこの言葉に、史明も息を抜いた。
「……まあね。俺が通ってたのは、中高一貫の男子校だったんだが、そこの郷土史研究クラブはかなりレベルが高かったよ」
それを聞いて、絵里花は想像を巡らす。中高一貫の男子校で、東大に合格できる学校と言えば、そう多くはない。それはどこも、絵里花のレベルでは足元にも及ばないほどの超難関校だった。
――……でも、男子校だったら、当然女の子はいないのよね……。
史明のこの風貌や態度を、昔から貫いていたのなら、当然女の子は寄り付いてこないとは思ったが、絵里花は史明の過去が少しだけ気になった。
それから二人は、また無言になった。一歩一歩足を動かすことに精一杯で、山道ということもあって、無心になってそれだけに集中した。