彼がメガネを外したら…。



そして、重苦しい現実を抱えたまま、また会話がなくなる。もともと、史明とは和気あいあいと話ができる間柄ではない。それでも、


――大丈夫。明日になったら、きっと帰れます。


心の中でそう言って、ずっと史明を励まし続けた。そうすることで、絵里花はひたすら自分の心を奮い立たせた。



夜が更けてくると、少し風が出てきた。吹きっさらしではないものの、夜の空気の冷たさと相まって、二人の体に寒さが忍び込んでくる。

もちろん二人は、ここで夜を過ごすことなど想定していなかったので、軽装だった。絵里花の〝山ガール〟スタイルも、この寒さには対応できない。
いつしか絵里花は膝を抱え小さくなって、ガタガタと震えていた。



「……望月さん。一つ提案があるんだが……」


暗闇を貫いて、史明の言葉が響いた。口を開いた史明も歯の根が合っておらず、その言葉が震えている。


「この寒さは、体力を消耗する。だから、二人で身を寄せ合って、暖をとるというのは、どうかな……?」


それを聞いて、言っていることの意味を理解するまで、絵里花は数秒を要した。


「……えっ!?」


絵里花が驚くと、史明はガラでもなく動揺する。


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