彼がメガネを外したら…。



「この歴史史料館の収蔵庫には、この県内外の古くは鎌倉時代から江戸時代までの史料を収集して保管しています。どれも貴重な史料ばかりだから、収蔵庫は水害の心配のない上の階に設置されています。万が一火災が発生したときも、収蔵庫内には窒素ガスが充填されて、消火される仕組みが採用されてます」


滑らかに史明の口から流れ出てくる説明に、女子大生はさも感心したように、頷いた。


「へぇ~、そうなんですかぁ。でも、それじゃ、もし火災が起きたら、ここにいる人はどうなるんですか?」


「ま、普段ここは人がいるところじゃありませんから」


「…え、でも。あの人は……?」


と、収蔵庫の端にいる絵里花の存在が気になった女子大生は、史明に尋ねる。


「ああ、焼け死にはしませんが、窒息死する予定です」


この史明の物言いを、女子大生は冗談だと思ったらしく、楽しげな笑い声をあげる。でも、史明が冗談を言うような人間ではないことを、絵里花は誰よりも知っていた。


――コイツ……!私が、死んでもいいんだ?!


自分を話のネタにして笑っていることが、ピクリと絵里花の癪に触ってしまう。


「そもそも、あの人はこんな収蔵庫の中で何をしているんですか?」


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