彼がメガネを外したら…。
「よ、…よこしまな考えなどは毛頭ない。君には、決して欲情などしない。この寒さをどうにかしたいだけだ。だから、抱きしめさせてくれ」
「………」
『決して欲情などしない』と言われてしまうと、史明を恋い慕う絵里花としては、多少複雑な思いもあるが……。史明は薄手のシャツしか着ていない。寒さは絵里花以上に堪えているはずだ。
絵里花は思い切って立ち上がると、史明の太腿の間に腰を下ろした。そして、小さくなって史明の胸にもたれ、その腕の中に包み込まれた。
そのあまりの暖かさに、絵里花の心臓がドキリと大きく鼓動を打つ。
「火でも起こせると暖がとれるけれど、マッチもライターもなければ難しいし、持っていたとしても、この風じゃ山火事が怖いしな……」
「……そうですね」
こうやって身を寄せ合うことの言い訳を聞いても、絵里花の胸の鼓動は落ち着くどころではなかった。
「昔の……、歴史の中の人々は、こんなときにも上手く対応できる知恵を持っていたんだろうけど。こんな部分、現代の人間はある意味退化してしまってるんだろうな……」
しみじみと史明が語ることを、絵里花は史明の体から響く音として受け取った。史明の腕の中から、暗闇を見つめながら合いの手を入れる。