彼がメガネを外したら…。
「昔の人は、こんな時にはどうやって火を起こしていたんですか?……火打石?」
「うん。明治になってマッチが使われるようになるまでは、火打石だな。それ以前は、木の棒と板を擦り合わせる『火切り』の方法で火を起こしていたんだ。火打石は最初に文献に出てくるのは『日本書紀』で、ヤマトタケルノミコトが火打石で野に火を放つ話が出てくる。だけど、庶民が一般的に火打石を使うようになったのは、江戸時代からだよ。旅に出る時なんかは、『火打ち道具』を携行していたらしいね」
「道具というからには、石だけじゃないんですか?」
「そう。火打石だけじゃ、火は起こせないから。火打石と火打ち金(ひうちかね)を打ち合わせて火花を散らすんだ。石から火が出るんじゃない。焼き入れをした鋼鉄の粉を散らして、それが火花になる。だけど、それだけじゃ着火はしない。『火口(ほくち)』と言われる綿やガマの穂を加工した着火剤に燃え移らせて、それを付け木に付けて火を大きくしていたんだ」
「へえぇ~~、岩城さんって、いろんなこと本当によく知ってますね」
絵里花は史明のこの教養の深さに改めて感心して、感嘆の声を上げた。すると史明も、このあまりにも素直な反応に、少し恥ずかしそうな声を出す。