彼がメガネを外したら…。
「……君は?どうして歴史の分野に?」
「え……?」
まさか自分のことについて、尋ねられるとは思っていなかったので、絵里花は戸惑った。
「君も、ああやって古文書の解読ができるくらいだから、大学で歴史を専攻してたんだろう?」
「私は……」
本当のことを言うべきか、絵里花は躊躇した。本当のことを言うと、史明に軽蔑されてしまうかもしれない……。だけど、本当の自分を知ってもらわないで、真の意味で理解してもらうことはできない。
「私は、自分から歴史を志したわけではなくて、たまたまその時付き合っていた人が、日本史学科を選択したから、私もなんとなくそうしたまでで……。だから、『古文書演習』の単位を取るために少し訓練をして解読できるようになっただけで、岩城さんのように特に目的や情熱があったわけじゃないんです」
「だったら、どうして今の職場にいるんだ?特に歴史が好きでもないのに、歴史史料館の職員なんて……」
史明に絵里花の境遇が理解できないのは、当然だった。絵里花の感覚は、歴史の世界に心酔している史明にとって〝歴史への冒涜〟にも値するかもしれない。