彼がメガネを外したら…。
君の名前
ウトウトとした浅い眠りから覚めて、絵里花はいきなり息が止まりそうになった。
眠り込んでうなだれた史明の顔が、絵里花の目の前にある!
これは、驚かずにはいられなかった。
朝の光が木々の間から零れてきて、朝靄(あさもや)にけむる辺りが、幻想的に白々と明るくなる。眠ってしまう前は暗かったのでほとんど見えていなかったが、こんなにも近くに史明の顔があることに、絵里花は今更ながらに気がついた。
――本当に、きれいな顔……。
頬やあごは無精ひげに覆われているとはいえ、史明の顔は本当に端正なものだと、改めて惚れ惚れと見惚れてしまう。さらに付け足せば、とても絵里花の好みだった。というより、史明に恋をしてから、自分はこんな人が好みなんだと気がついた。
スースーと寝息を立てながら眠っている史明の顔を、間近で見つめていると、ある衝動が絵里花の中に湧き上がってくる。
――……キ、キスしたい……!
絵里花がほんのちょっと首をひねって前に出せば、唇と唇が触れ合えそうだ。
その衝動を自覚した瞬間、絵里花の胸がドキドキと激しく鼓動を打ち始めた。実行に移そうか、どうしようか……。胸を高鳴らせながら、絵里花はちょっと首を動かしてみる。