彼がメガネを外したら…。
――……でも、待って!私、昨日から歯磨きしてない!!
土壇場になって余計なことを思い出してしまい、そこで固まってしまう。
すると、史明が微かな気配を感じ取って、目を覚ます。絵里花は息を呑んで、とっさに史明から顔を遠ざけた。
「……ゔぅ―ん……」
史明は意識を戻したと同時に、低いうなり声をあげ、表情を苦痛で歪めた。
「おはようございます。足の具合は、どうですか……?」
痛くないはずはない。そうは思っていたが、絵里花は確かめずにはいられなかった。
「……うーん……。『痛くなくなった』と言いたいところだが、どうかな?ちょっと、君。移動してくれるかな?」
「……あ、はい」
絵里花は、自分がいつまでも史明に〝抱っこ〟されていることに気がついて、赤面しながらそっと立ち上がった。
史明は様子を見るように負傷した足首を動かしてみて、その眉間のシワをいっそう深くした。
「何もしないときの痛みは、昨日よりも治まっているけど、動かすとやっぱり駄目だな……」
絵里花は消沈して、返す言葉が見つけられずに唇を噛む。
どうにかしてこの痛みだけでも和らげてあげたいと思ったけれども、湿布はおろか鎮痛剤の類も準備してきていなかった。