伯爵夫妻の内緒話【番外編集】
なるほど、それで機嫌が悪かったのか。
納得して、フリードは立ち上がる。
「勉強したいならここでもできるぞ。下に行こう」
フリードは頭に埃を付けたまま梯子を下りる。「危ないですよ」とディルクが先に下りて受け止めようとしたが、フリードは梯子の途中でぴょんと飛び降りてしまった。そのまま走り出したフリードを、ディルクが険しい顔をしながら追って来る。
「危ないじゃないですか! あなたに怪我をされたらこっちが怒られるんですよ」
「そんなヘマはしないよ。こっちだ。ディルク」
「フリード様!」
フリードは足には自信があった。ディルクになどつかまるものか、と一気に走る。
廊下を駆け足で行くふたりの少年に、屋敷の使用人は目を丸くする。フリードは慣れていたが、ディルクは見られていると思えば、彼ほど思い切っては走れなかった。見失わない程度の速度で後をついていくと、フリードはある一室の前で待っていた。
「遅いぞ、ディルク。ここだ」
「ここ……?」
「書庫なんだ。父上が買うから、たくさん本がある。調べたいことはここでなんでも調べられるぞ。誰かに教えてほしいなら、俺の家庭教師がいる。ディルクも一緒に教わればいいんだ。先生だって一人を教えるより二人を教えるほうがきっと楽しい」
ディルクは呆けたようにフリードを見た後、書庫の扉を開けた。そして、圧巻ともいえるほどの蔵書数に息を飲んだ。
「……すごい」
「昔からの本もあるけど、半分くらいは父上の本だ。まあ城の書庫に比べれば少ないだろうけど……」
フリードは言葉を止めた。ディルクがもう聞いていないのが分かったからだ。
すぐさま近くの書棚に駆け寄り、一冊一冊めくっては、満足そうにうなずいている。