伯爵夫妻の内緒話【番外編集】
後ずさり、屋敷の中に戻ったフリードは父の自室から剣を見つけ出して、再びディルクの前に戻る。彼は暗いまなざしでフリードを見つめた。
「相手をしろ。勝負だ」
「……何を言っているんです? 人相手に真剣でなんか」
「ドーレ男爵を殺したいんだろ? 人相手に真剣で稽古しないでそれができるのか?」
ディルクは眉を寄せた。
剣の稽古は、フリードもディルクも小さなときから行ってきたが、フリードがディルクに勝てたことは一度もなかった。
「……死にますよ?」
「ここで死ぬようなら俺もそこまでだろ」
先に切りかかっていったのはフリードだ。上からの剣筋を、ディルクは見極め体をそらし、脇から剣を振るう。それをフリードは戻した剣で受け止める。固い金属音。荒い呼吸。少しでもかすれば怪我をする。
「復讐なんてして何になる!」
「話す余裕がありますか。大したものです」
「答えろよ、ディルク」
「……何にもなりませんよ。だけど、もう僕には何も残っていません。生きる希望がそれしかないだけです」
剣が何度も交わる。押し合いになれば体重の軽いフリードのほうがよろけた。
そこで切り込んでこないあたりに、彼の手加減を感じて、フリードは悔しさに顔を歪ませる。
「希望は他にもあるだろ。ディルクはもうすぐ十五だ? 望めば働くことができる」
「傷のついた家名の持ち主を使う人間などおりませんよ」
「ここにいる」