伯爵夫妻の内緒話【番外編集】
ディルクを正式な従者にするまでには、少しばかり苦労した。
祖母が火が付いたように反対していきり立ち、いいなりの父は板挟みの状態になり結論をどんどん先延ばしにした。
後押ししてくれたのは叔父のアルベルトだ。
「しかしディルクほど剣の腕があり、あれほど知識も豊富なものもそういないでしょう。その歳で立派なものだと思いますよ」
「そうですよ。おばあ様。ディルクの父上が犯した罪は、ディルクには関係ないじゃないですか。ディルク本人を評価してください」
必死にすがるフリードを、リタは眉をひそめて見つめる。
「お前は、……やはり母親が悪かったのかしら。跡継ぎだというのに情に流されるなど情けない」
「なっ」
思わず反論しそうになったフリードを止めたのはアルベルトだ。
冷たい瞳でリタを見つめ、冷えた声でつぶやく。
「リタ様。フリードがここまで言うのです。従者として雇うくらいのこと、大目に見てやる余裕もないのですか?」
こういわれるとリタもぐうの音が出ない。嫌味の行き場も失い、大きなため息をつく。
「……まあいいでしょう。他にもっといい家柄の従者をつけることを約束なさい」
「はい」
「ああ全く不愉快だわ。従者となればこの屋敷に住むのでしょう? アルベルトもいるし、ここは居心地が悪い。私はもう北に移るわ」
アルベルトが無表情のまま頭を下げる。
フリードはホッとしてディルクを振り仰いだ。
アルベルトとリタが見えない火花を散らしていたことには、この時はまったく気づいていなかったのだ。