伯爵夫妻の内緒話【番外編集】



「……それ以来、ディルクは俺付きの従者だ。建前上他にも従者を付けていた時はあったが、おばあさまが北の別荘地に移られた時点で解雇した。ディルクくらい話が通じる相手じゃないとつまらないしな」

「まあ。じゃあ、あなたの従者はディルク以外には務まりそうにないわね」


エミーリアから見ても、ディルクは完璧な従者だ。周囲に気を配り、人間関係も把握し、執務も含めて主人の予定をきっちりと回している。加えて用心棒としてもかなり使える強さだ。


「それにしても。……その頃はアルベルト様とは不仲ではなかったのね」

「叔父上に不信感を抱き出したのは父上が死んでからだ。それまでは……数少ない理解者だと思っていたんだ」

「そう。アルベルト様の裏切りを知ったときは……悲しかったでしょう」


エミーリアが気遣うように手を伸ばし、フリードの金髪を撫でる。


「まあな。ディルクにもかなり心配された。……でも本当は、あいつに比べれば俺の悲劇などたいしたことはないんだが」

「悲しさは人それぞれよ。物事の大きさはそこには関係ないわ。……あなたが傷ついたなら、それはやっぱり辛いことだったろうと思う」


フリードは撫で続けるエミーリアの手首を掴み、自分の口もとに引き寄せて甲に口づけた。
妻は恥じらうように、一瞬体を震わせる。フリードはにやりと笑うと、そのまま彼女を抱きしめ、柔らかい髪に思い切り顔をうずめる。


「……だが俺には理解者が増えたからな。今はそう辛くはない。ディルクにもそういう相手ができれば……とは思っているんだがな。……せめて、爵位は復活させてやりたいと思っているんだが」

< 29 / 52 >

この作品をシェア

pagetop