伯爵夫妻の内緒話【番外編集】
「でもそうなったらあなたの従者ではなくなってしまうのではないの?」
「ディルクのためならそれも仕方ないだろう。まあ、爵位復活も簡単ではないんだ。まずは王家ともう少し親しくならなくてはいけないしな。おじいさまの代には交流が盛んだったようだが、父の代で色々傾いてしまったからな。まあ、こうして美しい妻もいることだし、これからは夜会に呼ばれても人目を惹くことができるだろう」
「まあ、うまいこと言うわね」
フリードの首に腕を回して、抱き締め返そうとした瞬間に、ノックの音がした。
「こちらにフリード様はおられますか?」
ディルクの声だ。ふたりは慌てて体を離し、身支度を整えて「どうぞ」と告げる。
「ヴィルマ准男爵家の馬車が到着しました。……仲がよろしいのは結構ですが、隙間時間を縫ってまで寝室に来なくてもいいでしょう」
呆れ顔のディルクに、フリードは笑いかける。
「いかがわしい言い方をするな。お前の話をしていたんだよ」
「私のですか? どういう?」
「マルティナの相手はトマスじゃなきゃお前だなって話だ」
それは予想していなかった提案だったようで、ディルクは一瞬目を点にする。
見慣れないディルクの隙のある表情に、エミーリアは思わず笑ってしまった。
「あはは。ディルクったら、そんなに意外だったの?」
ごほん、と咳払いしてディルクは表情を取り繕う。次に顔を上げた時にはいつもの冷静な従者の表情がそこにはあった。
「突飛もない提案はやめてください。私は馬に蹴られるのはごめんです。それより早く、お二方とも準備をなさってください」
「はーい」
階下では、しどろもどろながらマルティナがヴィルマ准男爵夫妻と話をして場を持たせてくれていた。
エミーリアはフリードの隣に立ち、階段を滑らかに降りた。
「やあ、ヴィルマ準男爵。このたびはおめでとうございます」
そしてフリードの声に合わせて、極上の微笑みを浮かべた。
【Fin.】