伯爵夫妻の内緒話【番外編集】
馬は疲労のいななきを上げている。
「ギュンター様、急ぎ過ぎです。ただでさえ休憩が少ないのに、馬のほうが参ってしまいますよ」
「ではルッツ、代わりの馬をどこかで調達できないのか。妻が倒れたと聞いてのんびり休憩などできるわけがないだろう?」
冷静沈着で知られているベルンシュタイン伯爵家の跡取り息子、ギュンターは、今非常に焦っていた。
第二王子であるクラウス=ファーレンハイトの招きで訪れていた東の宮に一週間ほど滞在しているさなか、妻が倒れたとの連絡が届いたのだ。
ギュンターが退出の挨拶もそこそこに東の宮を出発してしまったので、従者のルッツは彼の荷物をまとめたり「そんなに慌てることはないだろう」というクラウスの愚痴を散々聞かされたりと散々な目にあいつつ、ギュンターより三十分遅れて東の宮を退出した。
いつも通る街道で、ルッツがギュンターに追いついたのはさらに三十分後。
そこから、用を足すなど最低限の休憩のみの状態で馬を駆け、現在、ベルンシュタイン領まであと一時間というところまで来た。
「大丈夫ですよ。お命に係わるというわけじゃないんでしょう? 伝令も貧血のようだとおっしゃっていたじゃないですか」
「コルネリアはそれほど体が強くない。妻を心配するのが悪いか?」
「ギュンター様、コルネリア様のこととなると余裕がないですよねー。なんならお言葉だけでも先にお伝えしましょうか?」