伯爵夫妻の内緒話【番外編集】

ルッツが、自分の馬の毛を撫でるのを見て、ギュンターはムッとする。
彼が本気で馬を駆れば、ギュンターよりもずっと早い。なんといっても、そこに目をつけてギュンター自身が彼を従者に引っ張り上げたのだ。

だがしかし、気が急いているのをなんとか抑えているというのに、ここでルッツに先を越されたりなどしたら、苛立ちで自分がおかしくなってしまいそうだった。


「物騒なことを言うな。別にコルネリアが死ぬ程の病気というわけじゃないんだからな。俺がコルネリアの顔を見たくて急いでいるんだから、お前が先に行っても仕方ないだろう」


まるでコルネリアが死ぬような勢いで急いでいたのは自分だったはずなのに、と思うと恥ずかしいが、ルッツの手前いかにも平静そうに装う。ルッツのほうは屈託なく笑うと、彼の虚勢を素直に受け止めた。


「はは。そうですね。では少しだけ先に行って、次の村で馬に水をいただける手配をしてきましょう。ギュンター様、しばらくおひとりでも大丈夫でしょう?」

「当たり前だ」


ギュンターの返事を聞き終える前に、ルッツが馬のスピードを上げる。
砂煙を上げ、見る見るうちにルッツの姿は小さくなっていく。

何が違うというのだ。ギュンターだって乗馬は下手ではないというのに、このスピードの違いはなんだ。

自然、ため息が零れ落ちる。
今自分にあれだけ早く駆ける能力があったら、と羨ましく思いながら、ギュンターは馬の背を撫でた。
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