伯爵夫妻の内緒話【番外編集】
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ギュンターが、コルネリアに対してこれほど過保護なのには理由がある。
なにせ一夜にして見初めた伯爵令嬢だ。周囲に根回しをする暇などほとんどなかった。
彼らの婚約を知った時点から、ギュンターに好意を抱いていた貴族の令嬢たちは、一様にコルネリアを批判した。
ギュンターは人前に出るときはなるべき彼女の傍にいたし、いかに彼女が素晴らしいかを語って聞かせたものだが、嫉妬にかられた令嬢たちに素直に受け入れられるはずもない。
結果、ベレ伯爵のごり押しであるとか、おとなしそうに見えてコルネリアから誘惑したとか、あらぬ噂が広がった時期があったのだ。
その間、コルネリアはそれを黙って受け流していた。
加えて、ギュンターはベルンシュタイン家の跡継ぎであり、当然屋敷には母がいる。
ギュンター自身も苦手な、我の強い母だ。
この母に対して、大人しい妻がどれほど対抗できるだろうかと、彼はとても心配だったのだ。
予想に反して、コルネリアはあっさりと姑である母に気に入られた。どうやら従順で人を立てる彼女の気質が、母の自尊心をひどく満たしたらしい。
そつのないギュンターは、母に小言を言わせる隙を作らなかったし、天真爛漫な妹エミーリアは小言を聞き流すような性格の持ち主だ。母にしてみれば、自分の教えに素直に頷くコルネリアは可愛くてたまらなかったのだろう。
気に入られているならば冷たい扱いはされないだろうと一安心したのもつかの間、母はコルネリアに伯爵の妻としての心得を教えようと躍起になり始めたのだ。