王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
しかし、リリアンのロニーに対する恋のアタックは絶賛継続中である。
なんとか彼に振り向いてもらおうと生意気に口紅を塗ってみたり、ワルツの手ほどきをして欲しいと誘ってみたり、さまざまな策を凝らしている。
けれど口紅はギルバートに「似合わない」と拭われてしまったし、ワルツに至ってはロニーでは身長の高さが合わず結局ギルバートが相手になっただけだった。
「……つまんない。なんにも上手くいかないわ」
今日もリリアンはロニーを中庭のお茶会に誘ったのだけど、仕事があるからと丁重にお断りされてしまった。彼はジェフリーの身の周りの世話だけでなく、仕事の手伝いもしているらしいので、わがままを言うわけにもいかない。
すっかりいじけて自室のベッドに寝そべるリリアンを、いつものようにそばに仕えているギルバートがむくれた顔で見やる。
「もうやめたらいいのに。ロニーのどこがそんなにいいのさ」
リリアンは愛用の枕を胸に抱きかかえると、ゴロンと身体を仰向けに寝返し、ベッドの天蓋を眺めながら言った。
「大人っぽいところかな。だってロニーってばとっても紳士でしょ? 他の従僕たちはみんな私を『お嬢様』って子供扱いするのに、ロニーだけは『リリアン様』って呼ぶのよ。それに挨拶のとき、手にキスまでしてくれたの。素敵よねぇ」
うっとりした眼差しで想いを語ったリリアンだったけれど、ふいにベッドが軋んだのを感じて驚いてそちらを振り向いた。
「そんなことで喜ぶんだ? リリーって子供だね」
気がつくと、ギルバートがすぐ隣に腰を下ろしていた。いや、片手をリリアンの肩のそばにつき、覆いかぶさろうとしている。
「ギル……?」
寝そべった身体の上に、ギルバートの小柄な影が落ちる。理解する間もなく覆いかぶさってきたギルバートに唇を重ねられ、リリアンは頭が真っ白になってしまった。
押しつけては離れるのを三回ほど繰り返したあと、悪戯のようにリリアンの唇を軽く舐めて、ギルバートはようやく身体を離した。
「今日から『リリアン様』って呼んであげようか?」
上半身を起こしたギルバートの表情は、まるで別人に見えた。いつものあどけなさは欠片もなく、キラキラした天使のような瞳は、今は獲物を見つけた肉食獣のようにギラついている。皮肉気にあげた口角はまるで大人の男で、リリアンの心臓が痛いほど加速を始めた。