王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
しかし。
リリアンが部屋に戻ってから数分後、扉をノックしたのはギルバートではなかった。
「お話があります。少々失礼してもよろしいでしょうか?」
「……ロニー?」
思っていた来客と違うことに内心戸惑いながら、リリアンはロニーを部屋へ招き入れる。
さっきの話し合いの場には側近であるロニーもいたはずだ。だとしたら、リリアンの部屋に行こうとするギルバートを宥め、彼が代わりに来たということだろうか。
「どうしたの? 何かご用?」
立ち聞きしてしまった話を知らないふりして、リリアンは冷静な態度を務めながらロニーに着席を勧めた。
しかし、部屋に入って来た彼はソファーに座ろうとはしない。切れ長の瞳でじっとリリアンを見つめている。
鋭い眼差しに射られて、リリアンはなんだか気持ちが落ち着かなくなった。ロニーにこんな視線を投げ掛けられたのは初めてだ。怒っている訳ではないのに、彼の視線からは何かゾクリとする恐怖を感じる。
まるで本能が警戒しているような感覚にとらわれて、リリアンは無意識にロニーから一歩後ずさった。
「ど、どうしたの? 何か話があって来たんでしょう? ……あ、そうだ。今、ファニーを呼んでお茶を淹れてもらうわね」
妙な空気を打ち壊そうと、リリアンはわざと明るい声で振る舞う。そして、ファニーを呼ぼうとテーブルにあるベルを鳴らそうとしたときだった。
「……え?」
「——お茶は結構です」
テーブルに伸ばしたリリアンの手を、ロニーが掴み止める。
そして振り返った瞬間リリアンは掴まれた手を引かれ、ロニーの腕の中に抱きすくめられてしまった。