王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

「ロ、ロニー!?」

あまりに驚愕で、リリアンの声がひっくり返る。けれどロニーはすっぽりと包み込むように、華奢な肢体を自分の腕の中に閉じ込め逃がさない。

リリアンの胸が早鐘を打つ。今起きている状況が理解出来なかった。

心臓は痛いほど高鳴っているけれど、それはギルバートに抱きしめられたときとは全然違っていた。緊張と困惑と本能的な恐怖だけが、心臓を煩くさせている。

「は、離して、ロニー……」

声が掠れて上手く出せない。喉が潤いを失くしている気がした。

「嫌なのですか? 昔のあなたはこうして私に抱きしめられたくて、可愛らしい努力をしていたじゃないですか」

突然何を言うのかと耳を疑った。そんな子供の頃の憧れを理由に抱きしめてくるなど、あまりにも悪い冗談だ。

「それは小さい頃の話でしょう……! ふざけるのはやめて!」

腕の中から抜け出そうと必死に身体を押し離そうとする。けれど、ベストとシャツ越しに伝わる胸板の感触は驚くほど硬い。さすが元衛兵で、今も国王の側近を装い常に帯刀しているだけある。三十半ばを過ぎても服の下は鍛え上げられた筋肉を纏っているのだろう。

その感触にリリアンは自分を抱きしめているのがよく知ったロニーではなく、屈強な雄だということを強く意識してしまった。背中にじんわりと汗が滲む。

ロニーは片手でリリアンの背を抱擁したまま、もう片方の手で顎を掬い顔を上向かせてきた。彼の漆黒の瞳と間近で視線が合ってしまう。

「ふざけてなどいませんよ。あの頃もあなたは愛らしかったが、恋の相手には少し幼過ぎた。けれど今は——大人の恋を教えてあげるには相応しいレディだ」

吐息混じりの低い声で告げながら近づいてきた唇は、震えるリリアンの唇をたやすく塞いでしまった。
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