王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

ギルバートのもとから立ち去ったところで、それが無意味なことぐらい予想がつく。リリアンを失ったギルバートは血眼になって探すだろう。それこそ、王の座を捨ててでも。

だからこそ、リリアンは色々な手をつくしてギルバートを宥めているのだ。彼が国王として真面目に公務に励めるようにと。

それでも駄目だと言うのなら、教えて欲しかった。リリアンはどうするのが正しいのかを。

けれど。ロニーの口から紡がれた答えは、あまりに意外なものだった。

「……不躾とは重々承知ですが、リリアン様に私を男性として愛して頂くのがよろしいかと」

あまりに想像の斜め上を行く返答に、リリアンは声も出せずまばたきを繰り返してしまった。それを見たロニーが冷静だった表情を崩し、少しだけ眉根を寄せる。

「別に、私でなくとも構いませんが。ギルバート様の嫉妬に耐えうる人物として、己が最も適任だと判断しただけです。ようは、あなたが少しずつギルバート様から関心を失くせばいいのですから」

そこまで説明されて、ようやくリリアンは納得をした。ロニーの突飛な提案も、突然のキスの意味も。

「……私がロニーに心変わりしてギルに優しくしなくなれば、彼もだんだん私から興味を失くすと。そういうことね?」

「さようでございます。いきなり引き離されてはギルバート様も納得されないでしょうが、時間をかけて心変わりをすることならば、人間である以上可能です。ギルバート様は掛け値なしにすべてを受けいれてくれるリリアン様に心酔されています。けれど、あなたがその優しさを徐々に別の対象に向けられれば、ギルバート様も今のような執着を失くされるでしょう」

年若い男女が燃え上がるような恋をしても、時間が経てば心が移ろっていくのはよくあることだ。ロニーはリリアンの関心を自分に向けさせることで、それを狙ったのだろう。

リリアンはどういう顔をすればいいのか分からなくなって、泣き笑いのような表情を浮かべた。

「馬鹿ね、ロニー」

自分よりずっと年上の宰相に向かって無礼な物言いだとは分かっていても、言わずにはいられなかった。
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