王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
ロニーの考えた計画は、リリアンもギルバートも、そして彼自身も幸福になれないものだ。もしリリアンがまんまと企みに嵌ってロニーを愛してしまったのなら、彼はこの先いったいどうしたのだろうか。
きっと、いや間違いなく。ロニーはリリアンを異性として愛してはいない。少しでも恋情があったのなら、こんな心を欺く計画になど巻き込むはずがないのだから。
ただ主君の行き過ぎた恋を留めるため、好きでもない女と偽りの愛を育むことなど、ロニーにとっては苦痛でしかないだろう。そして計画が上手くいきギルバートの関心がリリアンから逸れたとき、ロニーはどうするつもりだったのだろうか。リリアンに非情な別れを告げたとき、ふたりにはきっと虚しい過去しか残されていないだろう。
それにもしこの計画が途中でギルバートに知られようものならば、ロニーはどうなるか分からない。リリアンに執着している今のギルバートならば、彼を宮廷官から罷免させるどころか、首を刎ねたっておかしくはないはずだ。
この計画は成功しても失敗しても、ロニーにこれっぽっちの幸福ももたらさない。
いくら敬愛する主君のためとはいえ、そこまで己を犠牲にしてギルバートの王位と平穏を守るロニーの姿は、リリアンの目には悲しいものに映った。
「ギルに誠心誠意仕えることは立派だと思う。けど、ロニーはそれでいいの? あなた自身はなにも得るものがないどころか危険を冒すだけだわ。それに、ギルのためを思っているようでも結局は彼を裏切って欺いてる。こんなこと、誰も幸福にはなれないじゃない」
けれど、リリアンの言葉にロニーはふっと柔らかに口角を上げる。まるでそんな愚かさなど初めから覚悟していたかのように。
「やはりあなたはお優しい方ですね、リリアン様。酷いことをしたというのに、こんな私の身の上まで案じてくださるとは。……けれど、私には己の幸福など必要ないのですよ。ギルバート様を王位につかせ、民に愛され敬われる偉大なる国王にすること。それだけが私の生きる意味なのですから」
そのためには例えギルバート様のお心に背くことがあっても——。
ロニーは最後に消え入るような声でそう付け足した。