王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

リリアンはまだたったの十七年しか生きていない。社交界デビューも出来ず田舎の屋敷で暮らしていたから、あまり多くの人にも接していない。だからだろうか。人生経験の浅い彼女には、ロニーの考えていることがまったく分からなかった。

自分の幸福でもなければ、君主の幸福でもない。ならば彼の望みはいったい何のためなのか。

「ねえ、ロニー。私にはよく分からないけど、そんなの駄目よ。自分で自分の幸福を望まないなんて、生まれてきた意味がないわ。もっと自分を大切にして」

訴えながら、リリアンは自分の言葉がなんて薄っぺらいものなんだろうと嫌になる。

そんな当たり前のことなどロニーはきっと分かっている。それでも、自分の幸福を投げ打ってでも叶えたい想いが、彼にはあるのだ。

それでもリリアンは言わずにはいられなかった。ロニーはリリアンにとっても大切な人だ。不幸になんかなって欲しくない。

どんな言葉で綴ったら彼の心に届くのだろうかと、リリアンは人生経験の浅い自分をもどかしく思う。

すると、目の前のロニーはニコリと穏やかに目を細め、ブリーチズのポケットから自分のハンカチを取り出すと腰を屈めリリアンの唇を丁寧にぬぐいだした。

突然の彼の行動に、リリアンは目を丸くする。

「リリアン様はまだまだ幼いですね。けれど、穢れのない優しさは私には少し痛いです。あなたを私の計画に巻き込んでしまったことを、反省したくなってきました。あなたの唇を汚してしまったことを、お詫びいたします」

きょとんとしたまま唇を拭かれたあと、リリアンはなんだか泣きたくなってしまった。

唇をハンカチでぬぐったところで、キスをした事実が消えるわけがない。けれど、ロニーは丁寧に、優しく清めてくれる。無意味な行為の、けれど親切な指先からは、彼の後悔が確かに伝わってきたからだ。
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