王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
しばらく呆然としたあと、リリアンは菫色の瞳にいっぱい涙を浮かべた。突然キスされた驚きと、いつもと違うギルバートの雰囲気に、心が追いつかない。
枕を抱えたままヒックヒックと泣き出したリリアンを見て、ギルバートは飛び上がるほど驚いた。さっきまでの妖しい雰囲気を一変させ、いつもの気弱な少年に戻ってオロオロする。
「わあぁ、ごめんねリリアン! ちょっと驚かせただけだったんだよ、ごめんね」
「ギルの馬鹿……っ、ギルなんか嫌い……」
「だってリリアンがロニーのことばっかり言うからぁ……」
眉を八の字に下げて、今度はギルバートの方が泣きそうな顔をしてしまう。
結局ギルバートが半泣きで謝ってもリリアンは許してくれず、この喧嘩は三日ほど長引くことになった。
キス事件以来、リリアンは少しだけ変わった。
ギルバートと仲直りはしたものの、もう一緒に湯浴みをすることはなくなったし、夜中にこっそりギルバートを連れ出して自分のベッドへ引っ張り込み内緒話をすることもやめた。
相変わらずギルバートは頼りないけど可愛らしい弟みたいな存在だ。でも以前と違って、ふたりきりでいると時々落ち着かなくなってしまう。
意識をするようになってリリアンは初めて気づいた。彼の水晶のように澄んだ瞳が、いつだってリリアンを追いかけていることに。
(ギルって、私のこと見過ぎ……)
何をしていたって、離れているときでさえ窓越しに、ギルバートの青い目はリリアンを映している。そして彼女の一挙一動に対して穏やかになったり、密かな苛立ちを浮かべていたりするのだ。
それに気づくとなんだか熱い視線で射られているような気がして、リリアンは落ち着かなくなってしまうのだった。