王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

ギルバートはモーガン邸に来るまで馬に乗ったことがないと言っていた。だからリリアンは得意になって彼に乗馬を教えてあげたのだがなかなか上達せずに、いつもリリアンが一緒に乗ってあげていたのだ。

ギルバートはひとりで馬には乗れない。それどころかリリアンが一緒じゃないと馬を怖がって近づくこともしなかったはずだ。

寝起きのあられもない格好で乗馬場まで走ってきたリリアンを見つけて、ギルバートはとても驚いた顔をしていた。近くにはロニーもいたが、彼も珍しく動揺していた気がする。

『ギル、馬に乗れるようになったの!? いつから? 内緒で練習していたの?』

リリアンが息をせき切らせながら矢継ぎ早に質問したのも無理はない。ギルバートの馬を操る腕は、あまりにも鮮やかだったのだから。パッサージュもギャロップも思いのままに出来るなんて、リリアンはおろか、モーガン邸の厩務員にもそこまで卓越した者はいない。

リリアンに見つかってしまったことを焦っていたのだろう。ギルバートは誰の手も借りずひらりと馬から降りると、手綱をロニーに渡し慌ててリリアンのもとまで駆けて来た。

『違うよ、リリー。さっきまでロニーに一緒に乗っててもらったんだ。馬の機嫌が良かったからロニーは途中で降りたけど、僕は落っこちないように必死に手綱を握ってただけだよ。馬の調子が良かったんだ』

今思えば、なんて苦しい言い訳なのだろうと呆れる。けれどそのときのリリアンは苦しい言い訳より、不器用で弱虫なギルバートがひとりで馬に乗っていたことの方がよっぽど信じられなかったのだ。

『なあんだ、そうだったの』

納得して、リリアンはなんとなく安心した。窓から見たときはギルバートひとりで馬を操っていたように見えたけれど、寝起きだったので見間違えたのかもしれない。そう結論付けた。

『僕がひとりじゃ馬に乗れないこと知ってるくせに。ロニーに手伝ってもらったけど、やっぱりなんか上手くいかないんだ。ねえ、リリー。今日も一緒に乗って教えてよ』

甘えた声で乞われて、リリアンはたちまち笑顔になってしまう。

『いいわよ、まかせて! 着替えたらすぐに教えてあげるわ』

今日はギルバートと何をして遊ぶかが決まって、リリアンの頭からは見間違えた光景の衝撃より、これからの楽しみでいっぱいになった。
 
だから、あのときはすぐに忘れてしまったのだ。こんな不可解な出来事を。
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