王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
ギルバートが国王だったことを知って、他国の王侯貴族や自国の大臣たちと狡猾に渡り合うことが出来るのだろうかと気を揉んだことが、今では可笑しい。
考えてみれば王太子の座についてから十二歳という歳にも関わらず、彼は数多の敵の策略を潰し、勝ち進んできたのだ。そんな怜悧な男を頼りないと思っていたことが間違っていた。
チエール王国との外交会談での功績を聞いたリリアンは、つくづくとそう思った。
彼はやはり国王として相応しい逸材だ。このまま国のために尽力すればステルデン王国はもっと大きな発展を遂げ、大陸強豪国の仲間入りが出来るだろう。
そのためにもリリアンは我が身を犠牲にしてでもギルバートに尽くさねばならない。
常に彼を奮い立たせ、ときには癒し、励まし、ギルバートの心の拠り所になること。けれど、決して公には結ばれない存在。それがリリアンに課せられた使命で、立場である。
「それって、いわゆる“愛人”てやつよね……」
クッションを抱きしめた身体をゆらゆらと揺らしながら、リリアンはあてどなく小さく呟いた。
様々な時代や国の王に妻以外の愛する女性がいたことは、本で読んだから知っている。側室、後宮、公妾……さまざまな呼び名があり、複数であったりひとりであったりと色々だ。
田舎暮らしで社交界デビューもしていないリリアンは、自国の歴史のことは深くは知らない。子供の頃、教育係に基本的なことは教わったが、代々の国王に愛人がいたかどうかなど聞く訳もなかった。
けれど、前国王であるラッセルは愛人持ちであった。そのせいで王宮はのちにギルバート対エリオットという王位継承権争奪に揉めてしまうことになるのだけど。
今はともかく、ギルバートが誰かと結婚してもリリアンをこのまま手放さなかったら、彼もまた愛人持ちの王になるのだ。
そんな未来を想像して、リリアンはツキツキと痛み出すこめかみを指で押さえた。