王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

「もう、好き嫌いもわがままも駄目よ。野菜は栄養があるんだから、食べなさい」

リリアンがもう一度口の前にフォークを差し出すと、ギルバートはぷいっと顔を背けてしまった。そこまでして食べたくないのかと、呆れを通り越して驚いてしまう。

「悪い子。一緒に畑を見に行ったの忘れたの? 野菜を育てるのは大変なのよ。粗末にしたらいけないんだから」

農村育ちのリリアンは野菜や果物が出来るようすも、家畜が育つようすも見て育った。だから、食べ物をとても大切にしている。そのことはギルバートにも教えているはずなのに、彼の態度には納得がいかなかった。

すると、ギルバートはチラリと彼女の方を向いてから一度溜息を吐き、観念したように喋り出した。

「ごめん、本当に人参は食べられないんだ。五年前、人参のポタージュに毒を入れられたことがあって、それから身体が受けつけなくなってる」

いきなり吐露されたあまりにも物騒な話に、リリアンの顔色が変わった。すかさずフォークに刺さった人参を彼から遠ざける。

「毒見係がいたんだけどね、そいつもグルだった。まんまと毒入りポタージュを飲まされて生死の境を三日さまよったよ。ロニーが解毒剤をすぐに入手してくれなければ、あのまま死んでたはずだ。それ以来、どうしても人参が食べられない」

よく見たらリリアンの皿の方には、付け合せの人参が乗っていなかった。どうやら給仕が間違えて置いたのだろう。ギルバートの食事からはあらかじめ人参が抜いてあるのが、この王宮の厨房の常識のようだ。
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