王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「ごめん、そんなことがあったのに無理強いしちゃって……」
「気にしないで。リリーは知らなかったんだから悪くない」
自分の浅はかさと、彼の悲しい過去をまたひとつ知って、リリアンは肩を落として落ち込んでしまう。やはりギルバートの抱える傷は深い。彼が心を癒し他人を信じられる日は来るのだろうか。
リリアンはフォークに刺さったままの人参を自分の口の中へと入れた。新鮮な野菜を使っているのだろう、とても甘くて美味しい。これを食べられないギルバートが可愛そうだと思った。
ごくりと人参を飲みこんでから、リリアンは改めて彼に向き合った。
「ねえ、ギル。お願いがあるの。小さくていいから、私に畑を頂戴」
「畑?」
いきなり突飛なことを言い出したリリアンに、ギルバートは不思議そうに尋ね返す。
「私、そこで人参を育てるわ。それから、その人参でケーキを作ってあげる。全部私が作るから、ギルは見てて。そうすれば安心して食べられるでしょう?」
彼の心の傷は計り知れないけれど、ひとつずつ癒してあげようと思った。稚拙でも空回りでもいい。ギルバートのために出来ることを全てしてあげたい。
身体が受けつけないと言っているのに、そんな直接的な方法が有効かは分からないけれど、ギルバートは笑ってくれた。クスクスと可笑しそうに、けれどどこか泣き出しそうに。
「リリーはすごいなあぁ。僕、きみの作った人参なら食べられそうな気がするよ。明日にも畑を宮庭内に準備させる。楽しみにしてるよ」
リリアンは胸が熱く満たされていくのを感じる。やはり自分はギルバートを愛している、彼を救いたいと強く自覚した。それが、愛人などと悲しい未来に繋がっていても。