王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
熾烈な権力争いの残滓は、今も王宮にこびりついているのかもしれない。まさしく、恨みを残したまま動けずにいる亡霊のように。
「じゃあ……ギルは恨んでいるかも知れない誰かに怯えながら、ずっと生きていかなきゃならないの?」
不安そうに眉尻を下げたリリアンに、ジェフリーは安心させるような笑みをフッと浮かべた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。今や宮廷官らは元よりギルバート様を支持していた信頼の置ける者ばかりだし、それに例えシルヴィア派の者が紛れ込んでいたところで、奴らもどうしようもない。万が一ギルバート様を王位から追い落としたところで、エリオットに継承権が回ってくることは二度とないのだからな。ギルバート様に危害を加えたところで、なんの得もなく首を刎ねられるだけだ。そんな危険で愚かな真似をする者がいるとは思えんがな」
なるほど、とリリアンは不安にしかめてしまっていた表情を戻す。
心の底ではどう思っているかは分からないけれど、現状少なくともギルバートに手を下す愚か者はいないということだ。それが分かっただけでもリリアンは安心する。しかし。
「じゃあギルが今でも警戒しているのはどうしてなのかしら……?」
毒見係を三人もつけたり、晩餐会以外はリリアンとしか食事を摂らないなど、ギルバートは未だに何かを用心しているように見える。それが不可解だった。
ジェフリーは皺だらけのあごを手で擦りながら、しばし思案に暮れた。
「何年もお命を狙われ続けたから、自己防衛する癖がついてしまわれたのかもしれないな……。悲しいことだが、平和な生活が続けばいつかはそれも治まるだろう。きっと、時間が解決してくれる」
やっぱり彼の心の傷に起因するものなのかと思うと、悲しくてリリアンはぎゅっとエプロンの裾を握りしめる。
「お爺様。私、もっと色々な野菜を作るわ。頑張って料理もして、たくさんギルに食べてもらう」
どんな方法でもいい。人参一本を食べてもらうことから始めたっていい。ギルバートに安心することを教え、人を信頼する心を取り戻してほしかった。
「……そうだな。お前がそうやって励まし続ければ、きっとギルバート様も心安らげるようになるだろう」
皺を称えた目もとを緩め微笑んだ祖父に、リリアンはしっかりと頷いて見せると椅子から立ち上がり、さっそくファニーを呼んで追加の野菜の種を持ってこさせた。