王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
「え…………?」
バルコニーは、時が止まったような静寂に包まれた。リリアンは目の前の光景が理解出来ず、ただ固まっている。
午後の柔らかな日差しが降り注ぐバルコニーを、一瞬で緊迫させたのはロニーの叫び声だった。
「毒だ!! すぐに侍医を呼べ!」
銀のフォークがリリアンの手から滑り落ち、カチンと音をたてて床に落ちた。
「……ギル……?」
いきなり悪夢に放り込まれたような気がした。自分の頭から血の気が引いていくのが分かる。手が極度の緊張で冷たくなり、足がガタガタと震えだした。
「ギル……ギル……、いやぁああっ!!」
床に倒れたギルバートはピクリとも動かない。口から流れ出る血が大理石の床を赤く汚していく。
衝撃と混乱でリリアンは気を失いそうになった。しかし、くずおれそうになった身体を、部屋に駆け込んできた衛兵が両脇から捕獲する。
「リリアン・モーガン。重要参考人として身柄を拘束する」
「……っ!?」
悪夢に追い打ちをかけられ、リリアンはもはや何が現実か分からない。
(……嘘、嘘よ。こんなのは夢よ。はやく……早く覚めて……!)
言葉もなく真っ青な顔のまま、引きずられるように部屋を出された。
血の気が引いて歪んだ視界から、床に倒れたギルバートの姿がだんだん遠ざかっていく。
「……ギル……!!」
乾いた唇で叫んだ痛々しいリリアンの声はバルコニーに届かず、ただ虚しく廊下に響いた。